国指定文化財

五百羅漢
<名勝新指定>
名  勝 平(ひら)戸(ど)領(りょう)地(ぢ)方(かた)八(はっ)奇勝(きしょう)(平戸八景)
     潜龍水
     大悲観
     福石山

指定基準 名勝の部 五 (岩石・洞穴)
     名勝の部 六 (瀑布)

所在地  長崎県佐世保市

説明   
平戸藩第10代藩主の松浦(まつら)煕(ひろむ)(観中)(1791~1867)は、長崎勤番の際に往来した平戸藩(平戸街道)の周辺に所在する8ヶ所の風景地を選び、弘化4年(1847)に「平戸領地方八奇勝」と名付けた。煕(ひろむ)は平戸に来遊した画工の澤(さ)渡(わたり)廣(ひろ)繁(しげ)(1808~85)に作画を命じ、嘉永元年(1848)に漢詩及び解説を付して「平(ひら)戸(ど)領(りょう)地(ぢ)方(かた)八(はっ)奇勝(きしょう)図」を完成・刊行させた。島以外の本土の陸地である「地(ぢ)方(かた)」の中から特定の8つの風景地を選んで作品に描かせた目的は、古く10~11世紀の中国北宋の画家である宋廸が描いた「瀟湘(しょうしょう)八景(はっけい)」に因み、平戸領内の主要街道沿いに在りながらも、知られることなく埋もれていた独特に風景地を顕彰することにあった。
「瀟湘(しょうしょう)八景(はっけい)」は、晴嵐・晩鐘・夜雨・夕照・帰帆・秋月・落雁・暮雪の自然現象又は景物に因んで8つの代表的な風景地を選び、漢詩とともに絵画に描いたものである。これに倣って日本では、16世紀初頭に近江国琵琶湖の優れた風景地を「近江八景」として選び、やがて各地に国有の8つの風景地を選んで作品に描く「八景」の風習が浸透・定着した。さらに「近江八景」のように自然現象・景物に因んで個々の場所を選ぶ手法から、自然現象等に関係なく土地に固有の一群の場所を選ぶ手法に至るまで、風景地の選択の在り方も多様化した。「平戸領地方八奇勝」は後者の類型に属し、高巌・潜龍水・石橋・大悲観・眼鏡石・巌屋宮・福石山・潮之目の8ヶ所から成る独特の風景地は、近代以降に「平戸八景」として広く知れわたるようになった。これらのうち、今回指定の対象とするのは「潜龍水」・「大悲観」・「福石山」の3ヶ所である。

「福石山」は、福石観音境内にある間口約60㎝、高さ4m、奥行き5mの水食又は海食によってできた砂岩の巨大な洞窟である。9世紀初頭に弘法大師空海が行基を追慕して五百羅漢仏を安置したのが始まりと伝え、その後の長い歴史の中で多くの羅漢仏は消滅したが、天明8年(1788)に第9代藩主松浦清が再興した。それらの多くは第二次世界戦後に散逸し、現在では、142体を残すのみとなった「平戸領地方八奇勝」では、古邸を圧し廊のように延びる大きな石洞内に、座禅の喜びに浸りつつ一喝一声に応じ合う五百羅漢の石像群の姿を解脱している。羅漢仏の数は往時に比して僅かだが、照葉樹の樹叢が覆う独特の地形から成る「福石山」の風趣は今なお優秀である。
 平戸往還の周辺に点在する8つの風景地は、漢詩・絵画を通じて「平戸領地方八奇勝」を構成する一体の風致景観として確立し、近世から近代にかけて「平戸八景」の呼称の下に多くの旅行者や行楽・参詣の人々が訪れる名所へと発展した。それらは、平戸に固有の地形・植生に基づく優秀な風景地であり、日本人の風景観に大きな影響を与えた「八景」の進化・定着の過程を表している。そのうち、「潜龍水」・「大悲観」・「福石山」の3ヶ所の風致景観が持つ観賞上の価値及び学術上の価値は高く、一体として名勝に指定し保護を図るものである。
福石観音の羅漢窟は平成27年3月10日に国指定文化財(名勝)に指定されました。

指定候補の考え方
1)選定の考え方
 本件は、「古来、詩歌に詠まれる等、由緒のある山・川・地・海岸・展望地点等のうち、当該地方に独特の風土及び背景にある芸術作品・活動の時代を反映しているもの」とする指定方針に基づくものである。平成23~24年度に文化庁が実施した「名勝に関する総合調査事業」では、今後、指定・登録等の可能性のある重要事例として選び、「名勝地一覧」に含めた。
2)同種の物件
 これまでに特別名勝に指定した長崎県の「自然的なもの」の事例には、温泉岳(長崎県雲仙市・島原市・南島原市/昭和3年指定・昭和27年特別指定)がある。また、「八景」のうちの一部の景が指定または登録した名勝の事例には防津(鹿児島県南さつま市/平成13年指定)の1例が、登録記念物(名勝地関係)に登録した事例には近江八景(堅田落雁)(滋賀県大津市/平成21年登録)、近江八幡(三井晩鐘)(滋賀県大津市/平成21年登録)の2例がる。
3)本件の位置づけ
 平戸往還の周辺に点在する8つの風景地は、漢詩と共に絵画に描く事により「平戸領地方八き勝(平戸八景)」を構成する名所へと発展した。平戸に固有の地形・植生に基づく優秀な風景地であり、日本人の風景観に大きな影響を与えた「八景」の進化・定着の過程を表している。そのうちの潜龍水・大悲観・福石山の3つの風景地は、樹叢が彩る独特の地形
から成り、風致景観が持つ観賞上の価値及び学術上の価値は高い。

今回、指定する理由
  上記の調査研究の成果に基づき、所有者の同意取得等の準備が整ったため。